法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』『一の悲劇』『ノックス・マシン』『法月綸太郎の功績』
鯨統一郎『パラドックス学園』で「日本でもっとも論理性の高い本格ミステリ作家」と紹介され、あとSF論壇でも作品が取り上げられたりして、「絶対好きだろうな」と思いつつ読んでいなかった作家。とりあえず手当たり次第に。
「悩めるミステリ作家」という渾名の通り、ミステリというジャンルについて非常に実験的・思弁的に取り組む姿勢がとにかくクール。隙のない、論理性の塊みたいなパズラーだからこそむしろ高い芸術性を感じるし、そのハードコアな姿勢に、思考と試行=ジャンル愛という熱が乗っている。ハードボイルドでなく本格ミステリなのに、なんとも「カッコいい」小説なのだ。
特に『ノックス・マシン』収録の短編どれもは本当に素晴らしかった。呆けた脳が久々にカッと熱くなるような感覚。表題作なんてグレッグ・イーガン並みの物理用語のオンパレードなのに、ちゃんと「謎解き」になっているうえ、センス・オブ・ワンダーありジャンルへの提言ありで現時点の今年の短編小説ベスト。「なぜ今まで読んでこなかったんだ!」という後悔しつつ「新しい狩場見つけたぞ!」と舌舐めずりが止まらない。パズラーゆえ内容を語りづらいのが非常にもどかしい。
瀬名秀明『BRAIN VALLEY』
法月綸太郎によってSF脳が活性化されたので、ガチガチのハードSFを、と思い手に取る。この作家も『パラサイト・イブ』それから短編集一冊しか読んでいない。
文学、というか芸術の重要なテーマのひとつが「神」だと思う。「神とは何か」、直接的にしろ間接的にしろ、その答えを表現する方法として、文学も音楽も美術も発展してきた。エンターテイメントだって芸術性を持っている以上、多かれ少なかれその部分を持つ。ボーイ・ミーツ・ガールものなんて、その最たるものだ。一目惚れって天啓だろ。
そういう意味で、その芸術の最大の課題に真正面から向き合い、SF的回答を用意したのがこの作品。本当に逃げずに、寓意とか多義性に迂回せずに、科学を絵筆に「神」の正体を描く。そこに作者の作家としての、そして科学に携わるものとしての野心と責任感を感じた。
「神」が何なのか、知りたくないか?結構なページ数と、山盛りの学術的記述を超えた先に、そのご褒美としてとんでもない答えが転がってるぜ。
そして明日は冲方丁『マルドゥック・アノニマス』の二巻の発売日。読みたい本ばかりが溜まっていく。金も時間も溜まらないが。